三浦剛資作品集

作品集(「釣り東北」掲載)

はじめに

この文章は宮城県仙台市にお住まいの三浦剛資様が東北地方に密着した情報を発信し続ける「釣り東北」の依頼で執筆した原稿です。

今回、三浦様ならびに「釣り東北」誌の格別のご厚意により当Web Pageへの掲載をお許しいただきここに掲載させていただくことにしました。 誠にありがとうございます。

なお当Web Page中のリンクについては当Web Page管理者が個人的趣味で勝手に張ったものです。

目次

  1. 山女魚
  2. 3年がかりの大物
  3. DTとWF

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山女魚

当然と思うかもしれないが大抵の川で雌の山女魚が釣れる。 ところが昔は東北で釣れる山女魚は雄だけだった。 しかしこの話を関東以西の釣人にしても信じてもらえない。 東北と北海道の山女魚だけの話らしい。 その時代に雌の山女魚が釣れようものなら大騒ぎでホルマリン漬けにして保存した所もあるくらい珍しいことだった。 明治とか大正とか、あるいは戦前の話とかではない。 わずか20年少し前までの話である。

山女魚はその名前の通り山奥の魚のように思われるが実は海の魚でもある。 産卵は上流で行われるが、川に残るのは雄だけで雌は海に降ってサクラマスとなって数年後に生まれた川に戻ってくる。 だから釣人が渓流で釣ることが出来る山女魚はほとんどが雄ということになっていた。 今でも放流がされないで自然の状態のまま残っている東北の河川で釣れる山女魚は大部分が雄である。

キャッチアンドリリースをしているから雄雌がわからないと言うのは言い訳にしか過ぎない。 本当に山女魚を守るためキャッチアンドリリースをしているのなら注意深く山女魚を見れば雄雌の区別はつくし、ネイティブかワイルドかあるいは釣る目的で放流された成魚かはわかるのだから。

現在雌の山女魚が釣れるのは、放流の結果である。 あちこちの川にダムや堰堤が出来てサクラマスが上れなくなったので山女魚は激減した。 堰堤に魚道はあるが、ここを上れるのは鮎だけで、よほど水の状態が良くなければサクラマスは上れない。 しかも水道水や工業用水など水需要の増大で中流域の水量が昔に比べて少なくなっているから、魚道を流れる水が極端に少なくなって鮎さえも上りにくくなっている。 親は戻ってこれない、残っているのは雄ばかり、その結果絶滅への道を進むことになる。 戦前にダムが造られた川では以前は山女魚が釣れたが今は居ないと言う話を聞かされた。 ニジマスやブルック(カワマスとその川では呼んでいた。)を放流したがニジマスは自己繁殖出来ず、ブルックは在来の岩魚と混成し雑種不妊のため最終的に絶滅してしまうことが判明してから放流は中止された。 しかし昭和30年代に山女魚の人工孵化に成功したおかげで、あちこちの漁協が山女魚の稚魚を放流した結果、雌の山女魚が釣れることになった。

ただ放流に携わった漁協の関係者から聞いた話では地元の川の魚が親ではなく東京の多摩川水系の山女魚が親になっていると聞かされた。 東北地方のある水産試験場の研究では、日照時間を調整することで山女魚の稚魚が銀毛化するそうだから地元の山女魚を親にしては定着率が悪くなるのかもしれない。

この辺の詳しい事情は専門家にまかせて釣人の立場から見てみると、冬期間はダムで越冬しているらしい。 まだ雪代が出る前にはダムの中でヒットする。 その時に山女魚のままの姿をしているのと銀毛化したサクラマスらしいのとが釣れる。 海から上った魚であるはずはないし型もはるかに小さい。 上流に放流された山女魚の一部がダムの中で銀毛化したのか、それとも在来の山女魚が取り残されたものなのか・・。

途中にダムが無い川では冬期はかなり下流まで降りていて、仙台市内でも、かもめやうみねこの姿が時々見えるくらい下流で3月初めの頃に山女魚が釣れる。 雪代が出ると共に上流に上るが魚道の無い堰堤で魚止めになってしまう。 堰堤の上にも放流はされているが、解禁の頃から4月中頃まで釣れる山女魚に比べ5月下旬頃から釣れ始める育ちのよい山女魚は下流から上ったとしか思えない。

田んぼに水を取り入れるために造られた堰堤があると5月中旬頃から山女魚がよく釣れる場合が多い。 この堰堤はどちらかの端に水門があって、そこから用水堀を通って田んぼへと流れて行く。 田起こしが始まって畔造りが終わる頃には用水堀の落ち葉もきれいに取り除かれて堰堤から水が流れ出す。 今農家の9割位が兼業だそうで、それらの農家が田植えをする時期はまとまって休みがとれるゴールデンウィークに集中する。 数キロ間隔で造られた堰堤から一斉に水が分流し田植えの終わった田んぼに流れ込むから本流の水は少なくなる。 この時期に川へ出かけてみたら、水温も適正、かげろうも飛んでいる、天気も最高の状態でありながらフライへの反応がまるで悪いことに出くわすのは取水のため水の状態が落ち着かないからである。

ゴールデンウィークが終わると田植えも終わるから、川の状態も落ち着いてようやくコンスタントに山女魚が釣れ始める。 この時期冷え込みがあって田植えが遅れると次の土日まで休みがとれないから1週間単位で釣りシーズンもずれることになる。

田植えが終わっても遅霜やヤマセから苗を守るため水管理をしなければならないから用水堀の水はそのまま流れ続ける。 田んぼに引き込む訳ではないから下流のどこかで本流に戻される。 そこを通って山女魚は上流に移動する。 5万分の1の地図はおろか1万分の1の地図にさえ載っていないもう一つの川が存在することになる。

貿易不均衡を和らげるため日本のお米の市場解放が行われた。 数年前のあの不作の年、緊急輸入のまずーい米の味を知っているからすぐに日本の米市場が輸入米で氾濫する心配はないだろうが、お米の大市場である日本向けに「EXPORT EDITION FOR JAPAN」の米が作られるのも時間の問題のような気がする。 その時、山女魚が上る用水堀がまだ残っているかは、わからない。

(釣り東北の別冊「チェイス」掲載)


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3年がかりの大物

彼があの川に通い始めたのはフライを初めてから3シーズン目のことだった。 最初はあの川へ行く予定ではなかった。 山女魚が釣れていると情報を聞きつけすぐに行くつもりが、残業や休日出勤で3週間も経ってしまっていた。 その間に鮎の解禁日を迎え、目指した川のポイントには友釣りの竿が乱立していた。 上流へ逃げることも出来たが、なぜかその気にならず万一に備え出発前に地図で確認しておいたもう一つの川へ向かった。 決して大きな川ではないが、たまにイワナの大物が出るらしいとの情報はあった。 梅雨の最中なので水量は多かったが、それでも小さい川だった。 途中の橋のあたりから河原に降りポイントにフライを送り込むとすぐに15センチ程のイワナが出た。 草や葦が多い河原で釣りやすい川ではなかったが、300メートル程釣り上るとやや広い場所に出た。 向かい岸の淵はいかにも深そうな水色をしていた。  流心の際にフライを落とすつもりがミスキャストで淵の頭にフライが落ちてしまった。 すかさず小さな魚がライズした。 合わせる気はなかったが反射的に手が動きフッキングしてしまった。やれやれと思いながらラインを取り込み始めたその時、淵の中から大きな魚が現われフッキングしている魚にパクリと食いついた。 1月程前のことだが彼は生れて初めて尺イワナを釣っている。 しかし今、目の前にいるやつは遥かに大きかった。 夢中でラインを取り込んだがその先に魚の姿はなかった。

東北に住んでいるフライマンならみんな近所の川に得意のポイントを持っている。 30分以内で行けるから定刻通り会社が終わった日、あるいは遅番で午後から出勤する日など、ちょっと寄れば一つや二つ釣れる場所である。 彼があの大物に出会った場所は、2時間も高速を走り更に1時間と言う程遠い場所ではなかったが、気軽に行ける程近い川でもなかった。

それから彼のあの川へ行く回数が増えた。休み毎ではないが月に2回は通い始めた。 その年は梅雨が明けた途端に例年になく暑い日が続き、ただでさえ小さい川は河原一面葦原になって竿を出せなくなった。 次の年のシーズンが始まり5月の連休が終わるのを待って通い始めたが、この年も手応えはまるでなかった。 彼がフライを初めて5シーズン目の解禁を迎えた。 今年こそはと思いつつ月2回のペースで通い続けたが、あの大物に出会った鮎の解禁の季節を迎えても姿を見せなかった。 禁漁が近づいた頃2年前に比べればやたらと釣り場でフライマンに会うようになったと思いつつ又あの川へと向かった。 いつもの橋の所から川に降り大物に出会った広い淵まで釣り上ったが、出たのは小さなイワナが3匹だった。 今日は少し粘ろうかと思った頃カタログから抜け出たような連中が下から上がってきた。 彼の太めの竿と明らかにその連中より大きなフライを見て「釣れないでしょう」と声をかけてきた。 腹も減っていたし午後のライズが始まるには相当時間があるので「ええ」と瞹昧な返事をしてその場を立ち去ることにした。 おそらくその連中には田舎のレベルの低いフライマンとしか見えなかったかもしれない。 川の上で竿をしまいながら見ていたら、あの狭い川でダブルフォールをかけまくり、持て余し気味のロングリーダを草にからませ悪戦苦闘していた。 近くのドライブインで朝昼兼用のめしを食べ終わってから車の中で仮眠をとった。 3時頃に目を覚まし現場に戻った時にはだれもいなかった。

あの時と同じように小さな魚がフッキングしてそれに食いつくことは無いだろうからと8番のマドラミノーをリーダに結びポイントにキャストした。 昨日の雨のせいで濁りの入った水が、淵の所で少し薄くなったように感じた瞬間、スッとフライが見えなくなった。

(「釣り東北」未掲載原稿)


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DTとWF

フライラインにはWFと表示しているウェイトフォワードラインとDTと表示しているダブルテーパーラインがある。 この違いを説明している本は沢山あるが、ほとんどがラインの説明書の訳文程度でしかない。 DTラインは両側にテーパーがついているから裏返して使えるとかWFラインは遠投用だとかいわれているが、これではごく一部しか表現していないことになる。

石を投げると大きい石より小さい石のほうが遠くに飛ぶ。 これはスピードが早いからに他ならない。 投げ出す瞬間のスピードのことを初速と言う。 初速が同じなら石は大きくても小さくても同じ距離まで飛んで行く。 そして物が動くとエネルギーを持つ。 速度が同じなら大きい石のほうが、スピードが早ければ小さい石でもエネルギーは大きくなる。

車の免許の書き換え講習で、事故を起こした場合時速30キロより60キロで走っている車のほうが遥かに大きな事故になると説明を受けるが、これと同じことである。 ルアーフィッシングあるいは投げ釣りなどは錘が糸をひっぱって飛んで行く。 ところがフライラインが飛んで行く場合は少し様子が違う。 蛍の光が流れドラの音と共に出航する船のデッキから投げ出されるテープが飛ぶのと様子がよく似ている。 一端は固定されていて反対側がほどけて飛んで行く。 必要なだけの初速で投げれば初めは沢山巻いてあるテープが、だんだん少なくなり最後まで出し切ることができる。

フライラインの場合は一振り一振りがテープの場合と同じである。 短い距離では初速を押えて竿を振るし、少し初速を上げればラインを引き出しながら、ほどけるようにU字型のループを描いて延びて行く。 DTラインならこの動作を繰り返せばロッドの長さに見合った距離までキャストできる。 ところがWFラインの場合は少し様子が変わってくる。 先端から大体13ヤード位まではDTラインとほぼ同じであるが後はランニングラインと呼ばれる細いラインである。 したがってこれ以上ラインを出したければランニングラインの手前で初速を上げて残りのラインを引き出すようなキャストをしなければならない。 竿には長さ、材質等で決まる固有の振動周期があって、この周期に合わせて竿を振ることで小さな力で大きな反発力を出せる。 これを無視して思いっきり速く竿を振っても初速は上がるが、竿の周期にあっていないからかなりの腕力がいる。WFラインを楽にキャストするには竿の反発力を最大限に利用しながら初速を上げる方法が必要になる。

人が50キロで走っている電車の中を進行方向に10キロで走れば、結果的に人は60キロで走っていることになる。 これと同様に竿が振られている方向にラインのスピードを加えれば初速が上がる。 これがフォールである。 フォワードキャストとバックキャストにそれぞれフォールをかければダブルフォールになる。 だからWFラインでは13ヤード以上のキャストをする場合フォールは絶対必要になる。 そして正確なフォールが出来た時、結果的にループは狭くなる。 ループの出来始めとフォールのラインの引き終わりが正確に一致しないと初速を上げられない。 タイミングが合わず何度もフォールを繰り返して「ラインスピードを『加速』してキャストしなければ遠くに飛ばない」と言うのは勘違いもはなはだしい。 『加速』とはスタートしてから自分自身でスピードを上げる場合をいい、ちなみにロケットを打ち上げる場合の初速は「0」である。

DTラインとWFラインではロッドの設計が根本的に違う。 ところがロッドに表記してあるのは長さと番手だけで、DTかWFかの違いは明記されていない。

DTラインはテーパー部分が終われば後は一定の太さになるから距離が伸びるにしたがって重さが加わる。 ロッドはそれに耐えなければならないから太いバットが必要になる。 更に元ガイドの位置がDTライン用のロッドはWFライン用に造られたロッドに比べてグリップ寄りの場所に取り付けられている。 8フィートのロッドで20センチ以上も取り付け位置が違うし、バットの太さも表記している番手が同じであるにもかかわらず、一目で違いが判るほど差がある。 それぞれのロッドに違うラインをセットすると、DT用のロッドにWFラインをセットするとフォールをかけても充分な反発力が発揮出来ないから効果の程が出てこない。 WF用のロッドにDTラインをセットすると14ヤード位までは問題無いが、そこから先はロッドがラインの重量を支え切れなくなって腰抜け状態になる。 でも渓流でフライフィッシングをするならWF用のロッドにDTラインをセットしていても何ら問題は無いし万一ライントラブルがあった場合裏返して使うことを考えれば、それも一理ある。 理解して使っていれば何ら問題は無いが、初めてフライをやる人はラインを傷つける場合が多いので黙ってDTラインをセットされてしまうことが多々ある。 練習してある程度キャストが出来るようになった時WFラインに出会うと元々WF用に造られたロッドならフォールをかけなくても、そこそこラインが出て行く。 このことがWFラインは遠投用のラインと誤解される原因になる。

現在キャスティングに関する本は沢山出ているが、WFラインの説明が多くDTラインに関してはほとんど無い。 それも当然で今入手出来るロッドの大多数はWFライン用に設計されたロッドである。 DTライン用に製造されたロッドにDTラインをセットしている人は次の点に注意してほしい。 WFラインはランニングラインが出た状態では一度ラインをリトリーブしなければ次のプレゼンテーションが出来ないが、DTラインの場合は30ヤード近くラインが出ていてもバックキャストが可能である。 ロッドもそれに耐えられるように出来ている。 しかし表面張力で水面のラインは大きな力で押えられているから、いくらDT用に造られたロッドでもそのままピックアップすることは無理である。 そこでロールキャストでラインを浮き上げてからピックアップをするテクニックが必要になる。

広い川のやや流れが緩い場所で水面に波紋だけが出てジャンプを伴わない「リングオブライズ」に出会った時、水面ぎりぎりにラインのスピードを殺し切った状態で正確にフライをプレゼンテーション出来るDTラインは最適なラインである。 そして魚がフライを喰わえた瞬間、ラインの重さを利用してフッキングさせられるようになればDTラインを充分に使いこなせたことになる。

最近湖などで使う人が増えてきたツーハンドロッドは購入時にシューティング用かDTライン用かを確認しておかなければならない。 アメリカ製のロッドは、ほとんどがWFライン用であるが、ツーハンドではDTライン用のロッドがあるからである。 ただしシングルハンドロッドと違って、こちらにはスペイキャスト或いはスペイロッドとカタログか本体に明記してある。 ツーハンドロッドは40ヤードのDTラインを一振りでキャスト出来るダイナミックなロッドであるが、必ずロールキャストでピックアップをしないとバットを折損してしまう。

(「釣り東北」未掲載原稿)


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