はじめに

良く晴れ渡った秋空が気持良いとある日の午後、FLY FISHING を愛する、とりわけ HARDY をこよなく愛する人々が日本全国各地津々浦々から集まり天の岩屋戸前は熱気に包まれた。 これこそ何を隠そう、いや隠してない、設立15年目を迎えた CLUB OF HARDY JAPAN の集いだ。




などと言っているうちに CLUB OF HARDY JAPAN から15周年記念行事の報告が発表されたので、ここにわざわざレポートを載せる必要がなくなってしまった。

それでも、まあ、せっかくこのページを読んで頂いたことでもあるので、感想だけ残すことにした。 読んだからといって何か得するわけではないが、暇つぶし程度にはなる:-)

感想

「白熱した議論が飛び交い、殴り合いになるような展開に仕向けようと思って進めたつもりだったが、皆さん大人で、残念ながらそういうことにはならなかった。」といったような話をトークショーの最後に司会者がしていたような気がする。 それはゲスト5人を除いた参加者全員の最大の期待だったのかもしれない。

些細な意見の食い違いから口から泡を飛ばす激論になり、観客からの声援・野次・罵倒が飛び、それに呼応して胸ぐらの掴み合いが始まり、ついには殴り合いからの流血、凶器・鉄柱・場外乱闘・助っ人乱入何でもありのバトルロイヤルの激戦の末に勝ち残った一人が東京タワーのテッペンに駆け登り、拳を振り上げて「イッチバーン」と雄叫びを上げたぁ〜。 そんな絵に描いたような期待どおりの展開になったら「ワシはの、あの、歴史上有名な、乱闘事件をこの目で、しかも、ラァイブで見ておったのじゃぞ。 話して聞かせようかの。 聞きたいじゃろう。 何ぃ?なんじゃと、またいつもの話しが始まったじゃと、迷惑だから止めろじゃとぉ? 何を言うか、この話は取って置きの、まだ誰にも聞かせてはおらんもんじゃぁ。 今日は家族親戚郎党犬猫一同が集まっためでたい席じゃ、特別に聞かせて進ぜよう。 よいか心して聞くのじゃぞ。 こら、ここな無礼者。 寝転んでわしの話を聞こうとするとはなんじゃ、正座せい正座、正座じゃ。 では始めるぞ。 イヨッ、ペペン。 時は平成九年十一月ぅ〜」などと5時間32分19秒ノンストップのコマーシャル・字幕スーパー・解説抜きで語り続けていたに違いない。 赤ん坊がヒキツケ起こそうが、子供が泣こうがわめこうが委細かまわず、逃げ出す者がいようものなら驚くべき素早さでとっ捕まえて柱に荒縄で縛り付け、引き留めようとする者にはカラテチョップを見舞って寄せ付けず、恐るべきしつこさで語り続けるという、いやはやもう沙汰の限り。 迷惑ジジイのなれの果てだ。

が、そんな八百分の一の可能性が実現していたら、フライなんてこんなものかと幻滅していたに違いない。 司会者の話にあったようにフライは「大人」の遊びなのだ。 フライの歴史の中に議論が白熱した挙句、腕力沙汰で決着を付けるということがかつて繰り返しあったのかもしれないが、所詮は魚釣りは魚釣り。 糸の一方には魚が、そしてもう一方には馬鹿がくっついているのだ。 腕力に訴えて魚のいないところで勝負をしてもしょうがないではないか。 てなことが言われるようになり、だんだん子供の喧嘩を潜り抜けて青年から大人へと成長していっていったに違いない。 フライ自体が大人なのだ。 日本の近代フライが始まった1972年から数えてちょうど今年で25年、25才だ。 フライという大人が遣わした本場の諸先輩から指導を受け、育てられた25年。 いいかげん日本のフライも大人になりつつあるといっていいのではないか。

トークショーが終わり懇親会に会場を移すため参加者が席を立ってしまったが、そのまま椅子に座り続ける人達がいる。 某T.K氏が持参した自家製のハックルを取り囲む人達だ。 熱心にハックルを見、手に取って感触を確かめ、経験談にうち興じている。 こんな無心にハックルに戯れている姿を見ていると、子どもが新しい、あるいは、お気に入りのおもちゃで遊んでいるところを思い浮かべ、その姿が重なって見えた。 フライは大人の遊びといいながらも、こうして自分が好きなもの、興味のあるものを前にすると童心に帰ってしまうのかもしれない。 釣り場で魚を前にしたときもそうなっているのだろう。 きっとそうに違いない。 そんな姿を見ていると、心が洗われるというのかとってもうれしい気がする。 何か得したようななんとも良い気分だ。

「Tight Lines」の乾杯の音頭で始まった懇親会では、一隅にHARDYの銘竿PALAKONAにリールをセットして並べてあり、誰でも手にとって眺められるようになっている。 それが10本もだ。 しかも竿もリールも全て滅多にお目にかかれないアンティークの逸品ばかり揃っている。 グラスを片手に実際に触って見ることができるのはHARDYファンにとって至福のひとときだ。 ここは37階スカイラウンジ、天国も近い :-)。

またPALAKONAのレントゲン写真のスライド(この一部は某フライ誌に載った)、故Johnnie W.Logan氏から譲り受けたというフライやフライボックス等の小物類、初期のPerfect Reel(巨大な真鋳製のもの)、そしてこちらにも PALAKONA De Luxe 8'6"なども展示してある。 こちらの De Luxe は 1930年代のHARDYのREEL(失念)ともども抽選で当たると知れたときの会場の湧きようといったらなかった。 全員が自分が当たったような気になっていたに違いない。 抽選会ではトークショーのゲスト5人のサイン入著書を始め、アンティークなフライとフライボックス、先のリール等がどんどん当たっていく。 そしてお待ちかねの竿。 抽選の瞬間を待ちわびる一瞬、会場は水を打ったように静まり返った。 そして一人の幸運の持ち主の元へと竿が手渡され、会場は大いに盛り上がってお開きになった。

HARDYが暗黒時代を抜け出したという話で古事記を思い出した。 天照大御神が天の岩屋戸にお隠れになってこの世が闇に包まれたというあの一節だ。 ということは、この集いで CLUB OF HARDY JAPAN と読む「天の手力男」が、HARDYと読む「天照大御神」を天の岩屋戸から引き出し、再びこの世に光をもたらすに違いない。 なんせHARDYファンと読む「八百万の神」が集まったのだから。


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