2010.9.15 update
日本全国に数千種類あると云われる鮎毛鉤のうちの極々一部を展示します。
(別冊つり情報 鮎のドブ釣り 82-86頁 「ドブ釣り黄金時代の名バリ - 生きた毛バリの「村田バリ」』より)
村田歳久は金沢の出身で、大阪の毛バリ研究家であった。 特に"生きた毛鉤"の製作者として知られる。 その代表的な毛バリは次の通り。
- 東ノ川(青ツノ) : 上流の良質なるアユに適す。
- 黒三光(黒ツノ) : 河川の上流および中流の夕暮れに用いる。
- 黒三光(赤ツノ) : 下流、中流の良悪良質のアユに用いてよし。
- 日向(青ツノ) : 朝夕の薄暗き場合、もしくは下流のアユなれば日中にてもよし。
- お染(元黄) : 砂地に連接して岩盤の点在するごとき場所に用いて、光線のもっとも明るき日中に良し。
- お染(二の字)(別名・八島) : 中流、下流向きのハリにて、深所に適し、お染の元黄と使用同じ。
- 黄金虫 : お染二の字に同じ。
- 赤虫 : 濁流の場合または激流の泡沫をたてて渦巻き立つ場所に適す。
- 一六(二の字) : 他の魚のごとく餌を求むるアユ(下流)、また上流にては涸水のとき練りアユに用ゆ。
- アミダ(赤ツノ) : 大アユ釣りによろし。
- 松風 : 側面遊動等のアユ(例えば岩壁等につくものをいう)、または垂直に竿を上げる操作を必要とする場合に用いてよし。 ただし岩壁のものは、岸より操作をすること。
- 新玉椿 : 日中の明るい場所、深みによし。
- 掛の矢(白ツノ) : 古くより土用の練りアユに用いられており、浅底の良質アユに適す。
- ピリケン(白ツノ) : 小石の散乱している浅底に用いてもっとも良好。
- 鈴虫 : 深渕をなす場所、または練りアユのごとき(ハリに対して無関心の場合)アユの注意を喚起する必要あるときに用う。
- 金竜 : 前者に同じ。 ただし初期のアユならば日中にてもよし。
- 若葉 : 渇水時の渕流の緩やかな場所等に日中にもっとも適す。
- 石川(別名加賀飛付) : 中流、下流等の渕などに用いる。
- 日暮(青ツノ) : お染の元黄と同様。 ただし深渕の場所に適す。
- 日暮(赤ツノ) : 前者に同じ。
- ヤミ烏(赤ツノ) : 中流以下の深みのハリにて、朝夕よし。
- 新(アタラシ) : 日中の浅みにもっともよし。
- 八ツ橋(赤ツノ) : 中間的なハリ、上・中・下流を通じて日中によし。
- おろろ崩し : 上流のアユ、殊に深部のものによし。
- 三日月 : 黒三光と同じ。
- 黒熊 : 動物質主食のアユに殊によし。 朝より日中にかけて良し。
- 水穂 : 村田最近の考案になる特殊の技工を施したるもので、濁水時の従来不可能とされた場合にも適す。
- 端雲(別名水穂2号) : やや濁りたる場合、または平水時、透明な日中。
- 飛付(大阪地方) : 石川(加賀飛付に同じ)。
- 玉川(擬餌掛けバリ) : 練りアユの統制を乱して釣るために用いられる。 静かに底に沈め、少しく斜めにしておく。 アユがハリの上を通る時、手首だけを動かし、ハリを跳らす程度の操作にて引掛ける。 ただし、1尾を得たるときは他のハリと取替えて釣る方がよろし。
(解説は大阪、村田歳久)
(別冊つり情報 鮎のドブ釣り 82-86頁 『ドブ釣り黄金時代の名バリ - 「福富バリ」の傑作20種』より)
高知県庁の水産技師で、生涯を鮎毛バリの研究に打込んだ人。 本名・福富正枝。 土佐バリにあきたりず、昭和3年、金沢に加賀バリの技術習得に出向き、昭和5年「福富バリ」を創案。 東京では東作釣具店、大阪では阪急百賃店で売り出す。
福富氏が自ら選定し、推せんした毛バリは下記20種である。 価格は1本12銭であった。
- 初音 : このハリは主として深部に適し、やや不透明の感ある水色がいい。 おもしろいことには晴れるとよく当り、曇るとたちまち当りが遠くなる。 全漁期を通じて的中する。
- 華厳 : 日中の清流は深部に、ささ濁り、曇天、夕暮時、開きに適す。
- 淺間 : 硅石質または硅藻の生えた岩壁、平水時流速ある渕がしら等の深部によい。 少しの濁りに好果があり、常に大型の雄が多く、笠置とともに必要なハリである。 晴曇いずれもよいが、ささ濁りの晴れた場合、澄川では曇天に的中することが多い。
- 十和田 : 青々とした渕の淀み、渇水時の開き等水垢のない場所に適。
- 嵐山 : 礫質の、硅藻の付着せる晴天・平水時の適バリ。
- 雲井 : 昭和4年考案の門外不出の秘蔵バリの一つ。 數年來のテストの結果は、釣りにくい土用のアユに対しても偉力がある。
- 千曲 : 渇水時、水深2m内外の荒底に硅藻が密生し、相当流れの速い場所の岩着きアユに的中する。
- 布引 : 比較的淺部において平・渇水時共に的中する。
- 一閑 : 「淺間」と同様であるが、釣り場はずっと広く、平水時岩壁近くや硅藻の生えた荒石の多い深部。
- 笠置 : 当りの遠いきらいはあるが、大物アユに對して、他に比類がない。 釣り場は局限され、岩壁・沈床・堤防等の瀬の流れ込みの水の激衝せる底暗い所に適する。
- 喜楽 : 上流部の適バリ。 平水時日中に大物が当る。
- 新錦鶏 : 主として淺部用のハリ。 水色は澄、ささ濁り、晴曇いずれも差支えない。 初期から落アユ前までいずれの河川にてもたいてい的中。
- 波川 : これも主に淺部用。 荒川より緩流平瀬に適し、極く澄んだ時よりもささ濁りが特に良い。 日中がよい。
- 福富飛付 : 深部用にして、底の青々とした淀み、開きのよく澄んだ平水時、晴天の日中に適する。
- 淀二号 : 初期及び中期出水後の澄み口、落アユ期の適バリである。 河川中部より下流に適する。
- 須磨 : 少々の濁りは深淺ともに的中し、梅雨期、驟雨の多い時期等、水況不定の場合によい。 夏土用の旱天続きの後に、騒雨でささ濁りとなった場合などよく当る。
- 國光 : 珍毛トキサギを主巻としたもので、門外不出のハリ。 渇水時、ハリ馴れた平瀬の石着きアユの大物がよく当る。 主として平坦部に適す。
- 瀬田 : 晴天の早暁、ささ濁り、曇天日中に的中。
- 草笛 : 平水時、底の荒い開き、渇水時の深部、水況不定の際の瀬の落込み等に的中する。
- 金鈴 : 最も派手なハリの一つ。 遡上期・平水時、出水後のささ濁りに、上流から一時的に押し流されたアユに深部の瀬脇で的中。
- 千兩 : 川の澄んだ場合には日の出日没前後、日蔭のある間がよく、底石・沈床の石つきアユに妙。 全期を通じて使用の機会多く、型も大きい。
岡部丹紅,福田紫汀,伊藤原次郎,松本国三,鈴木魚心,青山浩,遠藤鮒二の諸氏が、全国のどこの河川でも対応できる10種を選定したもの。 (「毛鈎の話」(著者:福田紫汀)18-20頁より)
アユの毛鈎は二千数百種に及ぶ膨大な種類なので初心者の方には選択が難かしく、入りにくいので、私が音頭を取って、日本毛鈎釣り連盟(当時の名称、日木毛鈎釣りの会)は、昭和二六年より約三年間に亘り、全国の各県支部会員および一般同好者にも呼びかけ、普遍性のある、性能の高い毛鈎のアンケートを集め数十種類の中から、本部専門委員会が慎重に審査を行なった結果、絶対多数の支持を得て、左記一〇種が決定した。 これだけあれば、全国のどこの河川でも一応間に合うので解説を加えることにする。
- 八ツ橋(荒巻) : 初期から中期にかけ、一日中適する万能鈎である。 特に流速のある瀬、中下流の小石庭の場所には最適である。
- あみだ : 全期を通じて、流れの緩急を問わず、水深一メートル余りの所に適し、石淵の淀みの拾い釣りに特効がある。 使用範囲が広く、全国の河川に適す。
- お染二の字 : 全期を通じ中下流に適す。 水深一・五メートル以下の所に効果があり、特に小石の平場によい。 お染に比べて大ものがくる。
- 青ライオン : 中期頃、日中晴天の水深約一・五メートル内外の平場に適し、特にカゲロウの多い河川では最適である。
- 新魁 : 全期を通じ清流に最適の万能鈎である。 この鈎はどこの河川でも一度は使うべきであろう。
- 暗カラス : 全期を通じ、朝夕渕の深部に最適である。 水底の大石蕗や、流れの強い深部で大ものが来る。
- 金太郎 : 初期、すべての場所でよい。 特にささ濁りの時には日中に、澄んだ時は夕釣りに特効がある。 深部の渕のナメの場所などでもいい。
- 五郎 : 初期、晩期の朝夕、水深丁五メートル以上の場所で、明るい河川に適し、緩流に向く。 末期の落アユには特効がある。
- 永楽 : 全期を通じて、中下流の平場の日中に適し夕釣りや薄にごりの時は特によい。
- 桃ボカシ : 中期の日中に適し、庭石の黒ずんだ水深一・五メートル内外の所で特効がある。
(注)標準鈎選定後、約二〇年が経過した現在では、全国的に河川が公害等のため水質の透明度、珪藻類の質等の低下のため"あみだ" "金太郎" "五郎"の性能が落ちたことを書きそえておく。
素晴らしい鮎毛鉤を製作している方々